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ノウハウの公開

 次に同業関係であります。ロータリーは一業一会員制で選ばれた人達でありますから、クラブの中には原則として同業者がいないはずであります。しかしこれは今少し崩れかけておりますが、なぜ同業者を排除したのでしょうか。これは同業者というものは、同じ業界にいますから、お互いによいところも知っていますが、汚いところも、悪いところも、醜いところもお互いに知り尽くしています。アイツはオレの欠点を知っている、ということが一点ありますからどうしても心を開くことができません。また、同業者は同じ業界にいますから、食うか食われるかの関係、競争関係にあります。そのためどうしても同業者がいれば危機感を持ちます。そういうことを考えて、ポール・ハリスは、シカゴクラブを作ったときに同業者を排除したのであります。

 資本主義経済社会の自由競争の世界では、同業者というものは食うか食われるかの競争関係に立ちます。そしてこの自由競争には、プラスの面もあればマイナスの面もあります。自由競争のプラス面は、お互いに競争しますから技術開発に役立ちます。販売技術、製造技術、その他諸々の技術の開発に役立ちます。

 しかし反面、同業者がいるために、「オレが潰れる前にアイツが潰れてほしいな」という訳の分からない感情の虜にもなり、お互いに疑心暗鬼になります。したがって、ロータリーは、プラスの面を伸ばしながら、マイナスの面を消去していくという考え方をとります。つまり疑心暗鬼になる要素をできるだけ取り去っていこうという努力をします。

 そのためにどういうことをしたのかと言いますと、ロータリーには同業者がいません。異業種の集まりでありますから、発想が皆違います。そこで、いろいろなアイディアを例会で出し合って、交換しあい、そしてどんな不況期にも潰れない強靱な体質の企業を作るアイディアを開発します。そしてそれを同業者に分かち合う、同業者共存共栄をロータリーは説いているのであります。アイディアをロータリーからもっていくためには、同業組合を作らなければならない、という同業組合結成の運動が一つの大きな柱となるのであります。そして、そのアイディアを更に、広く伝えるために、商工会議所を作らなければならない、という考えに発展していくのであります。

 チェスレー・ペリーは、「ロータリーができたときのことを考えてみよう。アメリカ経済社会に商工会議所は殆どなかった。あったとしてもそれは有名無実なものであった。そして同業組合は一つもなかった。これはロータリーが作っていった。商工会議所のないところに商工会議所を作り、同業組合のないところに同業組合を作り、有名無実の商工会議所を倫理を提唱する団体として蘇らせていった。これがロータリーがアメリカ経済社会に与えた最大の功徳である」と言っているのであります。まさに1910年頃から1930年頃まで、営々としてこのような運動をロータリーは展開してきたのであります。

 いろいろな原理、アイディアを開発する、そして自分たちが栄えていくためにノウハウを開発する。そのノウハウを同業組合にもって行って公開する。また、同業組合で、為すべきこと、為すべからざることをお互いに誓い合う。職業倫理訓の提唱であります。

 このようにアイディアの共同開発、そしてそのアイディアを公開していく。したがって、ノウハウの公開ということが大変重要な柱になります。しかし、「ノウハウを公開したら、オレの会社が潰れてしまう」と考える方があるかも知れません。しかし、そうではなくて、このノウハウというのは、産業秘密的なものを公開しろといっているのではありません。何故ならば、それはまだ証拠立てられていないからであります。完全に証拠立てられて、これは絶対大丈夫、必ず成功するというものしか公開してはならないのであります。そうでなければ、産業秘密的なもの、未だ証拠によって立証されていないものを公開して、もしそれが失敗に終わったとすれば、自分が失敗したのは自業自得でありますが、それを使った他人まで失敗に巻き込むことになります。完全に証拠立てられたものでなければ公開してはならないのであります。

 例えば、1954年から55年にかけて国際ロータリーの会長であったハーバート・テーラーは、「四つのテスト」を開発しました。これも一つのノウハウの公開でありました。

 この「四つのテスト」にしたがっていけば、必ず成功すると考えて、みんなで力を合わせて、倒産したアルミ食器会社を再建したのであります。商工会議所の人達はそれをみて言いました。「おいハーブ、君はあの倒産会社を数年のうちに一流企業に育て上げた。何か秘訣があるのだろう。ノウハウがあるのだろう。手の内を明かせよ」と言いました。かれは、「実はこの『四つのテスト』がその秘訣なのだ」と。

 そこで、商工会議所の人達は、それを傘下の職業人に紹介して、ハーバート・テーラーの会社はこの「四つのテスト」でもって成功したのだから、これに沿ってやればいい、と言ってそのノウハウを公開しました。ところが、それを見ていたシカゴクラブの人達が、「なんだハーブのやつ、ロータリーでは黙っていて商工会議所であんな素晴らしいことをしている。ロータリーにも公開しろよ」と言うので、ロータリーに逆輸入されたのであり、やがて1954年に彼が国際ロータリー会長になったときに、「四つのテスト」の版権をロータリーに委譲したという経過があるのであります。これはノウハウの公開の一例であります。

 このように完全に証拠立てられたノウハウを公開しなければなりません。もう一つ例を出します。この話は、伊丹クラブの荘司先生から伺った話であります。先生のお父様の兄弟弟子にあたる千葉医大の中山恒明教授の話であります。彼は食道癌の権威でありますが、2年間訓練を受けた外科医であれば誰にでもできる簡単な食道癌の手術のノウハウを発明しました。そしてそれを誰にでも教えたのであります。自分一人では1日に100人の患者の手術をすることはできない。しかし、その技術を100人の外科医に教えておけば、1日に100人の患者が救済できる、と言ってそれをすべて公にされました。千葉医大のみならず他の大学の先生にも公開されました。そして自分だけのものにしない、医は公のものであるという思想、すなわち中世ヨーロッパの神学の分かれとしての医学、その精神世界に生きた人であります。これもまさにノウハウの公開の好例であります。ノウハウを自分だけのものにして、自分だけ儲けようなどという思考は一切ありません。ひたすら患者を救うために、一人でも多くの外科医を育てておけば、一人でも多くの患者が救済されるという考え方であります。
 このように、ノウハウを公のものとして公開していく、先ずこれが大変重要なことであります。そして、為すべきこと、為すべからざることをお互いに誓い合う、倫理訓の提唱が重要であります。

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