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親睦と相互扶助を見直す

 さて話を前に戻して、ポートランドの第2回全米ロータリー連合会で、He profits most who serves bestというシェルドンの奉仕理念が、チェスレー・ペリーによって読み上げられました。スピーチが済むと会場は興奮の嵐に包まれます。大会委員長を務めたシアトルクラブのジェームス・ピンカムが立ち上がって、これをロータリーのモットーとして採用しようと動議を提案すると、参加者は皆これに賛成したという記録が残っています。この時点から、今までの親睦と相互扶助中心の綱領を見直す作業が始まります。
 1906年にシカゴクラブで最初に制定された綱領は、
@会員の事業上の利益の増進
  お互いにがっぽり儲けましょう。
A社交クラブの性質上通常付随する親睦その他の望ましい事項の増進
  クラブの親睦を最優先に考えましょう
というものでした。それがドナルド・カーターの入会拒否の問題を経て、1907年2月にポール・ハリスが会長に就任したときに、
Bシカゴ市の振興を図り、会員間に市民としての誇りと忠誠の精神を培う
という項目が入って、地域社会に対して奉仕活動をしようという考えが加わります。それから後にできたアメリカの各地のクラブは、この定款をそのまま採用して、シカゴ市という部分をシアトル市とかポートランド市とかに置き換えて使ったわけです。
 1910年の連合会結成以後、何回かの定款改正が試みられ、事業上の利益の増進の表現が徐々に薄められてきます。1912年の第3回大会は、その年にカナダに新しくロータリークラブができたために、国際ロータリークラブ連合会と改組されて、デュルースで開かれて、ここで綱領の抜本的改正が行われることになります。
 第1条は、すべての合法的職業の価値に対する認識を深め、社会に対する奉仕の機会を与えるものとして、会員の職業を神聖化するというもので、ここではじめて職業奉仕の概念が成文化されるとともに、自分の職業を大切に考えていこうという考え方が盛んに盛り込まれます。
 第2条には職業倫理の向上が成文化され、職業上の高き道徳的基準を奨励するという項目が入ります。そして第3条では、今までの職業上のお互いの利益増進の項目が消されて、そのかわりに意見や商取引の方法をお互いに話し合い、各会員の能率を増進するという形で職業情報を交換していこうと改正されます。さらに第4条は、従来の親睦からさらに一歩踏み出した形で、奉仕の機会および成功への道として、親密の度合いを深めるための知識を普及するという条文に変わります。この時点で、今までのべたべたした親睦や物質的相互扶助から脱皮して、奉仕理念を前面に押し出して、積極的な情報交換による精神的相互扶助に変える作業が終了したわけです。
 1906年の最初の定款からもわかるように、ロータリーは会員の事業の発展と親睦を目的に出発したわけですから、決してこの二つの目的を捨てたわけではありません。事業を発展させる手段として、世間のひんしゅくを買うような物質的相互扶助をしなくてもロータリーが考える奉仕理念で事業を営んでいけば、それ以上の利益がそれも永続的に得られるのだという確信が得られたからこそ、この一大転換を決意したわけです。そしてその利益を享受するのはロータリアンのみにとどまらず、すべての職業人に拡大したいという発想から、業界全体のモラル向上運動にまで発展させていくのです。
 この綱領改正によって奉仕理念を確定させたロータリーは、その啓蒙運動とともに急ピッチでその具体的作業が進められていきます。まず1913年の大会に、全世界に拡大されていったクラブに職業倫理とは何かについてアンケートを出して、それをまとめたものを作りたいと提案が出されます。
 そこでシュウシティクラブのロバート・ハントが委員長となって、全世界のクラブからロータリアンが守るべき職業倫理についてのアンケートを集めるのです。そしてその作業を引き継いだシュウシティクラブのピンカム他5名の起草委員が、1914年の国際大会が開かれたヒューストン行きの特別列車の中で最後のまとめをしたのです。
 当時は優雅でした。クラブが集まって国際大会が開かれるヒューストンまで一緒に行こうと特別列車を一本仕立てるわけです。ヒューストン行きのロータリー号という列車を作って、お祭り気分でおしかけたわけです。その列車の中に起草委員の人達が集まって、アンケートの集計や報告書の作成等をしたわけです。一生懸命作業をしてやっと全部終わったときに、列車はヒューストンに着いていたという話が残っています。
 ヒューストン大会に提出されたこの文案は、1年間かけて完璧な形に練り上げられ、1915年のサンフランシスコ大会で出席者全員の同意を受けて承認されます。これがかの有名な、「全分野の職業人を対象とするロータリー倫理訓」俗に「道徳律」と呼ばれるドキュメントです。これを守れば職業倫理は向上していく、いや職業人はこうしなければならないのだということがすべて網羅されている。言い換えれば、これを守っていけば必ずや自分の企業を防衛し発展していけるエキスが詰まった文章なのです。
 そんな素晴らしいドキュメントなのに、現在のロータリーの社会から消え去った原因は、その内容の厳しさと宗教色にあるのです。自分の行ったサービスの限界に疑義を感じたら、自分の考えている範囲を超えたサービスをしなさいと書かれている。第6条にそういう文章がある。これを厳格に適用すると、自分が売った品物のフォローを最後までする必要がでてきます。一生面倒は見きれないと反論がでてきました。それから一番最後の第11条に黄金律というマタイ伝からの引用がでてきます。ロータリーは宗教にそぐわないという理由から、これが問題になってきます。
 RIもその取り扱いに苦労しまして、1927年に改正委員会を設置してその改正を試みたのですが、1931年には宣伝したり頒布することが禁じられ、ついに1951年にはロータリーのあらゆる文書からその姿を消してしまいます。つい最近までRIの細則第16条に「道徳律」という名前だけがかろうじて残っていたのですが、1980年からはそれも消えてしまって、今では公には存在しない文章となってしまいました。非常に残念なことだと思います。
 「道徳律」は1915年のサンフランシスコ大会で採択された後、後のRI会長を務めたガイ・ガンディガーが翌1916年に発行されたA talking knowledge of Rotaryロータリー通解という本に掲載して、当時の全会員に配りました。

《全分野の職業人を対象とするロータリー倫理訓》
1.わが職業は価値あるものであり、世に奉仕する絶好の機会が与えらていると考えるべきこと。
2.わが身を修め、わが能率を向上し、わが奉仕を拡大すべきこと、そうすることによって、最も奉仕するもの最も多く報いられるというロータリーの基本原則に対して忠実なることを立証すべきこと。
3.われは実業人であり成功の野心を抱いていることを認める。同時に道徳を重んずる人間であり、最高の正義と道徳に基づかざる成功はこれを欲するものではないと自覚すべきこと。
4.わが商品、わがサービス、わが創意工夫を、利益を目的として他と交換するのは合法にして道徳に基づくとの信念をもつべきこと。ただし、全ての当事者がこの交換によって利益を受けることを前提とする。
5.わが職業の標準を向上させるため最大の努力をいたし、その結果わが業務の進め方は賢明にして利益をもたらし、この実例にならえば幸福への道が開かれることを同業の者に悟らしむよう実践すべきこと。
6.わが競争者と同等ないし、それ以上の完全なサービスをなし得るような方法をもって業務を運営すべきこと。もし疑わしい際には厳格な意味の責任義務を越えて一層のサービスをおこなうこと。
7.専門家あるいは実業人の最大の資産のひとつはその友人であることを理解すべきこと。そして友情を通じて得られたものこそ妥当なものであることを理解すべきである。
8.本当の友人は互いに強要するものではなく、利益のためにみだりに友人の信頼を用いることはロータリーの精神に一致せず倫理訓を汚すものである。
9.他の人がおこなわないような不正な方法によって機会を利用して得た成功は合法的でなく道徳にも反する。また道徳的に疑わしいため他の人が採らない機会に乗じて得る成功などは欲しないこと。
10.われは一般の人以上にロータリアンたる友人を拘束することはしない。ロータリーの原則は競争ではなく協力であるからである。党派心はロータリーのごとき制度においてはあってはならない。人格はロータリーの内に限られるものではなく、広く人類一般に深く根ざすものであることを確認し、全ての人や社会制度をこの高遠な理想に向かわしめるためにロータリーは存在するものである。
11.最後に「すべての人にせられんと思うことは人にもその通りせよ」という(マタイ伝第7章)黄金律の普遍性を信じ、地上の天然資源に対して全ての人に均等な機会を与えられてこそ人類社会は最良の状態となるということを主張するものである。

 少し堅い訳文ですが、素晴らしい内容であることがお分かりいただけることと思います。ここで特に申し上げておきたいことは、この道徳律がロータリアンの手によって、多くの企業で活用されたという事実です。1922年にワシントンで開催された全米レストラン組合の大会で、この道徳律をモデルとした業界の倫理基準が採用されたのをきっかけにして、百以上もの同業者や専門職団体がロータリーの道徳律を雛形とした倫理基準を採用しましたし、イギリスの自動車販売者協会が発布した「自動車販売業者の道徳律」は、ノッチンガムクラブの元会長ベネットが起草したものです。ロータリーが作り出したこの素晴らしいドキュメントが、ロータリーの世界から消え去って、ロータリー以外の世界で活用されているということは皮肉なことですが、今一度この精神を思い起こしてみたいものです。
 私が特に興味を持っているのはこの第6条です。もしも自分のサービスの限界に疑問を感じたら、とことんまでサービスしなさい。自分が造ったもの、自分が売ったものを最後まで面倒見なさいという、これは今の製造物責任法、いわゆるPL法なのです。今日本で一番新しい法律が、1915年にロータリーが作ったとは驚きだし、ロータリーの理論が古すぎるとは言えないのです。
 これを守っている企業は沢山あります。例えばスナップオンという会社、レンチとかプライヤーとかそんな工具のメーカーです。このメーカーで作った工具は、たとえそれがもらったものでも拾ったものでも、いつであろうとどこであろうと壊れたら無償で新品と交換してくれます。値段は高いけれど皆満足して使っている。決して安くすることがサービスではないのです。
 伊勢湾台風の時、木曽川や長良川の流域での浸水の被害に対する、あるミシンメーカーの対応もよく例に出されます。たとえ天災であったとしても自分の会社の製品は責任を持つべきだとして、洪水で浸かったミシンを全部無償で修理しました。ついでにどのメーカーのものでも持っていらっしゃい、ということになって全部ただで修理してしまった。これはロータリアンの企業です。今、隆々と栄える企業になっています。
 とことんまでアフターフォローすれば、赤字になって倒産してしまう。大部分の会社はそれが怖くて口をつぐんでいるんです。しかし計算上ではそうなったとしても、あえてこれに挑戦した企業は1軒も倒産していないという結果が出ているのも皮肉なものです。消費者やユーザーは決して馬鹿ではありません。その真摯な態度が人の心を打って、前にも増して注文が殺到したために、計算通りにならなかったのです。
 第10条に一般の人とロータリアンに取引上の差をつけてはならないと書かれています。いまだにロータリアン同士だから安くしろと言われたという話を聞きます。これは禁じられています。友情は大切だ。しかし不公平な取引をすることと友情とは別次元のことです。「全くの好意から、自発的に値引きをしてくれたらどうするのか?」と問われたらちょっと返答に困るのですが、「おまえ、ロータリアンだろう。原価で売ってくれよ」これは絶対にだめなのです。1912年にロータリーはこの世界から脱却したのですから。サービスとはそんな安っぽい次元のものではないことをこの道徳律から学び取っていく必要があると思います。

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